キタニタツヤ × 笹川真生 6000文字インタビュー 【ネットアーティストからライブアーティストへの転換、表現者として目指す場所とは】




【メンバー】キタニタツヤ 笹川真央

話題の「ネット発アーティスト」であるキタニタツヤ、笹川真生のお二人に、音楽を始めた理由や、彼らがなぜ、音楽のプラットホームに「ニコニコ動画」や「YouTube」を選んだのか。同居時代の生活など、彼らの真相に迫る。



[インタビュー・編集:仲尾静輝 撮影:Genki Ito]


今の人が「Tik Tok」を見るような感じで、ニコ動のランキングをチェックしてた。(キタニ)

ーーはじめに、お二人が、音楽を始めたきっかけを教えてください。

キタニ:小学生の時にテレビでアニメの「NARUTO」を見ていた時に、主題歌を担当していた「ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下:アジカン)」を聴いて、そこからロックを聞くようになりました。同じタイミングで親もアジカンにハマって、親子で邦楽ロックを聞くようになって、高校生の時に友達とバンドを組みました。

笹川:僕はキタニと違って高校生の頃まで、全く音楽を聴いてこなかったんですよ。そういう中でYouTubeを見ていたら「凛として時雨」の「Telecastic fake show」が出てきて、怖いもの聞きたさで聴いたら「なんだこれ!?」って驚いて、何回も聴いてたら音楽が好きになっていました。それで当時、ニンテンドーDSのソフトで「大合奏! バンドブラザーズ」ってゲームがあって、ゲーム内のちょっとした作曲機能で曲を作り始めました。

キタニ:インプットが「凛として時雨」しか知らない状態で曲作り始めたんだ(笑)。

一同:(笑)。

ーー笹川さんは、高校生になるまで興味があったことはありましたか?

笹川:全くなかったです(笑)。でも強いていうなら、ゲームがすごく好きでした。テレビも見てなかったので耳に入ってくる音楽は、ゲームかニコニコ動画の「おもしろフラッシュ」しかなくて、クラスのみんなが聞いている音楽も知らなかったです。

ーーおもしろフラッシュってなんですか…?

キタニ:えぇ!?

笹川:フラッシュっていうのが小学生の頃流行ってて、BUMP OF CHICKENの「ラフメイカー」に合わせてアスキーアートが動いているような動画なんですけど、それを見ていい曲だなと思ったりしていましたね。

キタニ:みんなBUMP OF CHICKENは知らなくても「ラフメイカー」っていう曲は知ってるみたいな感じだったよね。

ーーキタニさんは「ニコニコ動画(以下:ニコ動)」に投稿し始めたキッカケはなんだったんですか?


キタニ:僕は高校3年生の頃はまだボカロPとして活動していなくて、真生は割と早くからニコ動に投稿してたよね?

笹川:僕は高校1年生の終わり頃から、ニコ動に投稿を始めました。

ーー音楽のプラットホームに「ニコニコ動画」を選んだのはどうしてですか?




笹川:小学生の頃からニコ動を毎日見てて、僕はボーカロイドを使って、投稿していたんですが、その当時のボーカロイドって今でいう「オタク」みたいな見られ方をされてたんですよ。そこから段々、音楽として認知されるようになって、ニコ動の中では、ボーカロイドを使っているだけで聞いてくれる人がいるっていうのは、肌で感じていたので、投稿すれば、無名でもとりあえず聞いてもらえるというの思いはありました。

キタニ:その当時(高校1年生)は、俺も毎日のようにニコ動を見てましたね。



ーーニコニコ動画の中には、ボカロの曲のランキングがありますよね。そういうのを見て、順位が上がるにはどうしたらいいかみたいな事も考えていたんですか?


笹川:そうですね。僕の場合は好きでボーカロイドを使っていたというよりは、打算的に使ってた部分が大きかったです。

キタニ:そうなんだ!逆に僕は、ボーカロイドの音楽が好きだったので「大学生になったらパソコンを買って、こういう事をやってみたい」と思っていました。僕はいわゆるオタク側の人間ではなかったと思うのですが、その時はボーカロイドも完全に市民権を得ていたので、今の人が「Tik Tok」を見るような感じで、ニコ動のランキングをチェックしていましたね。

ーーニコ動を含む「ネット発アーティスト」がライブハウスでライブをやる時に、よくチケットの売れ方が「ライブハウスを中心」に活動しているバンドと比じゃないという風に聞くのですが、どうしてですか?


キタニ:ライブすること自体がレアだからじゃないですかね?「ネット発」って表に出てこないからそう言われる部分はあって、ライブの数が少ないから来てくれる感じはありますね。

笹川:そうだよね。あとファンの信仰心が強いですね。


ーーそうなんですね。例えば、キタニさんの音楽を聞いたお客さんが笹川さんの曲も聞いたりするような、繋がっていく感じもあるんですか?

キタニ:ありますね。真生の曲を聞いていたら、大体僕の曲も聞いてるし、逆も然りですですね。僕らもそうですけど、ニコ動系で出来た友達がすごく多いんです。だからその友達同士で、ファン層は被りまくってますね。

笹川:Twitterで、同じ界隈でリプライを飛ばし合っているのを「ファンを喜ばせるためのビジネス」と思われたりします(笑)。


生身の音楽をやってみたいという思いがやっぱりあった。(笹川)

ーーお二人は最近まで(2020年 2月)同居もしていましたが、最初の出会いはなんだったんですか?


笹川:僕の方がキタニより先にDTMを始めて、大学1年生の時だったかな?Twitterで急にフォローされて、僕の曲が好きだったんだよね?

キタニ:近いものは感じてたね。「こいつ絶対俺と似たような音楽が好きだろうな」と思っていました。その時はお互い「the cabs(2013年に解散)」が大好きで、周りにも同じような仲間が多くいました。でも当時、真生は新潟で僕は東京に住んでいたので実際会ったことがないまま、2年くらいTwitterとかでやりとりしてました。

笹川:最初のキタニめちゃくちゃ怖かった。

キタニ:そうなの?

笹川:僕が今よりかなり内気だったから「インターネットにヤンキーが入ってきた」みたいな感じでした(笑)。

キタニ:初めて会ったのは、真生がニコ動系のアーティストとして、東京でライブをするってなった時にサポートメンバーを探してて、会った事もないし僕のベースの技量とかも知らないのに、誘ってきて(笑)。



ーーじゃあ実際、顔を合わせたのはリハーサルスタジオとかですか?

キタニ:そうです。あの時は「お前が笹川真生か!」って感じだったね。

笹川:僕も「こんにちは谷田さん(キタニタツヤのボカロP名義)ですか?」って感じでした。

ーー笹川さんは、ニコ動に投稿する形で音楽を始めたわけですが、どうして生バンドでもやろうとも思ったんですか?

笹川:僕はインターネットでしか音楽を知らなかったので、生身の音楽をやってみたいという思いがやっぱりあって。

キタニ:一回対バンしそうになったよね。

笹川:僕が新潟でバンドをやっていたんですけど、キタニのバンドが遠征で新潟に来ることになったんです。

キタニ:それが本当は初対面の場になるはずだったんですよ。「ネットで仲良かった笹川に会えるぞー!」と喜んでいたら、当日に真生がインフルエンザになって。初対面がさっきの話の通りになったっていう感じです。



ーー先ほどのお話の中で、お互いに近いものを感じるという話がありましたが、お互いの曲にインスパイアされる部分はありますか?


キタニ:同居している時は、隣の部屋から真生の今作っているものが、聞こえてきて「こいつ今こういうの作ってるんだ」みたいな。それでお互い休憩のタイミングで集まると「いま作ってるのいいじゃん」って話したりしてましたね。

笹川:「その音なに?」って聞く事もあります。

キタニ:深夜にデカい音でギターを弾いてたら「いいリフ弾いてんな」と思ったこともありますし、真生はめちゃくちゃ音楽聴いてるから、色々教えてくれるんですよ。音楽以外でも、一緒にホラーゲームをしてて、その中の1シーンがいいなと思ったら、二人で「今のシーン良かったね!」ってなることもありますし、インプットが同じではないですけど、感性としてはやっぱり近いのかなと思います。



ーーそういう事も見越して、二人で住もうと思ったんですか?

笹川:全然。

一同:(笑)。

キタニ:音楽してるやつと住みたくはないけど、真生だったら大丈夫かなと思う部分はありました。奇跡的なバランスじゃなかった?

笹川:奇跡だったね。

キタニ:音楽している二人だったら、どちらかがしっかりしてなくて、生活が成り立たなくなりがちじゃない?

笹川:そうなりがちだよね。

キタニ:でも、意外と二人ともに社会性があって成り立ってましたね。

ーー笹川さんは、曲に対する部分だけではなく、アートワークなども自身で手掛けられていて、作品に対する全てを自分で終始されていますが、それには理由があるのでしょうか?


笹川:ツテがないから…。

キタニ:えぇ!?。

笹川:すごい現実的なことを言うと、予算がないのと今でこそ色んな方にお会いしますが、前までは知り合いも全然いなかったので「自分でやってみようかな」と思ったのが地続きですね。ボーカロイドをやっていた時も一人でやっていたので、抵抗なく始めました。

キタニ:ボーカロイドとかその界隈のいいところって、グラフィックやってる人もいて、そういう人とも同じように繋がれるんですよ。なので、グラフィックをやるにしても、教えてくれる人がいるんです。

笹川:デザインに困っても、ニコ動で出会ったデザイナーの友達に「この文字の配置どう?」とか聞いたりします。

キタニ:だからネット発の人って自分で色々やる人が多いじゃないですか?そういうのもコミュニケーションが取りやすい環境があるからだと思います。
逆に誰かから「音楽を始めたい」って相談されたら「こういう機材買えばいいんだよ」って教えたいよね。

笹川:教えたいね。

ーーでは、この2020年にまた新たに音楽を始めるとしても「ニコニコ動画」を音楽のプラットホームにしますか?


キタニ:僕らは、初めの方はニコ動で活動してましたが、後半はYouTubeでしたね。ネット発っていう自負はあるんですけど、自分ではニコ動発とは思ってないです。僕らが認知されるようになったのもYouTubeですし、ニコ動の時は「俺らこの世界では食っていけねー!」って感じだったよね?

笹川:惨めの極みだったね…。



ーーそうなんですね。最近では「ニコニコ動画」自体が、衰退していると言われていますが、それはどうしてだと思いますか?




キタニ:ニコ動はやっぱり世界が狭い分色が濃くて、ニコ動の中で音楽が飽和しがちなんですよ。僕らも売れなくて悩んでいた時に、売れるフォーマットの曲を作ったりしてよく失敗したよね?

笹川:僕も一時期、1曲毎に訳分からないくらい曲調が変わったりしてました。

キタニ:そうだよね。でもYouTubeだったら世界が広い分、のびのびと自由に曲を作れますね。だから僕はYouTubeの方が好きです。今の時代でニコ動に勢いがあったとしても、あまりやりたくないですね。

笹川:自分もそうですね。良くも悪くもすごくガラパゴスなサイトですよね。今は色んな人に聞いてもらいたいと思っています。

キタニ:逆に、自分たちより年下のアーティストが似たようなフォーマットの曲ばかり出しているのを見かけると、大変そ〜って思います。