ライブハウスPA座談会。PAが思う理想の音作り

【メンバー】鈴木大介(クラブチッタ) 林 俊也(近松) ハヤシTiGタイゴ(フリーランス) 

今回はPA座談会と称し、クラブチッタの鈴木氏、近松の林氏、フリーランスとして活動するハヤシTiGタイゴ氏に登壇してもらう。

アーティストが普段疑問に思っているリハーサルの方法や、PAという職業について赤裸々に語ってもらった。


[インタビュー・編集:仲尾静輝 撮影:りっちゃん]

専門学校に行った人の中でも卒業して現場に残っているのはごく一部なんです。(鈴木)


ーーまずはじめに、PAになるには専門学校などで基礎から学んだ方がいいのか、それよりも早くライブハウスなどで経験を積んだほうがいいのかどちらなのでしょうか?


林:僕は一般的な四年制の大学を卒業し、その後にPAになりたいと思って独学で勉強しました。



鈴木:僕は専門学校に通っていて後半の方はライブハウスに研修に行っていました。専門学校に行くと繋がりが出来るし、機材にも触れることが出来るので大学に行くよりは、ざっくりとした知識を得る環境はありますね。



TiG:専門学校は音響の基礎的な部分だけではなく、マナーや各セクションがどういう風に動いているかも知る事が出来るので現場に出た時に馴染みやすくなります。


林:自分はそういった基礎知識がない状態でいきなり現場に入りました。専門学校でもやる気があれば学べる事が多いと思うので、行きたかったなと今でも思います。


鈴木:専門学校に行った人の中でも卒業して現場に残っているのはごく一部なんです。



TiG:同期が130人くらいいたのですが、今現場に出ている人は10人もいないですね。



鈴木:そうですよね。PA科にいた人がイベント制作科になったり、アーティストになったりしていて同じ現場にいるけど立場が違う事がありますね。逆にバンドマンからPAになる人もいたりして、昔ほどPAになるためのルールみたいなものは無くなって来ています。


ーーPAになるには楽器の演奏経験があった方がいいのでしょうか?


TiG:僕は一通り出来ます。しかし、その経験が余計だなと思う時があります。自分がバンドマンなこともあって、リハの時などにバンドと会話をするのは得意な方だと思いますが、客観的にみる事を忘れがちなので意識するようにしています。



林:楽器の知識があることはいい事だと思います。機材の話になった時にバンドとのコミュニケーションもとれますし。逆に初めて見る楽器の時はどういう音が鳴るのか調べますね。


ーーPAの中には会社に所属している人と個人でフリーランスとして活動している人がいますが、フリーでPAをやっている方はどのように仕事をとっているのでしょうか?


TiG:最初からフリーでやれる人はほとんどいなくて、みなさん最初は会社などチームに所属してそこから繋がりが増えて個人で呼んでもらえるようになるのが一般的だと思います。


鈴木:僕は一旦フリーを経験してまた会社に戻りました。



林:性格によって会社の方が向いている方と、フリーで活動するのが向いている方がいますね。


鈴木:フリーランスは個人事業主なので、仕事をするだけじゃなくて経理やスケジュールの調整も自分でやらなくちゃいけません。そういう事もできる人の方が向いているのかもしれないですね。

TiG:タフな人じゃないと大変ですね。(笑)



鈴木:自分の好きなアーティストのオペが出来るなどフリーはフリーの良さがあって、逆に会社に所属していると会社の都合で動かなければいけなかったりしますが、スケジュールやお金の管理は会社がしてくれます。あと一応会社員と名乗れますね。( 笑)



1曲目を最後にする事でPAが一番理想だと思った状態から始める事が出来る(TiG)


ーーリハーサルの方法について悩んでいるアーティストが多くいますが、効率よくリハーサルを行うにはどうすればいいのでしょうか?

林:自分達が決められた時間の中で何を確認したいかをはっきりさせておく事で、その時間を有効に使う事が出来ると思います。

TiG:よくセオリーとして言われるのはセットリストの2曲目から確認して、最後に登場から1曲目を確認する方法ですね。PAはリハーサル中、常にフェーダーやツマミを操作しています。なので1曲目を最後にする事でPAが一番理想だと思った状態から始める事が出来るんです。

ーー要望の書き方について誤解のないように又、伝わりやすい書き方はありますか?


鈴木:7:3など数字で書いてくれる方もいるのですが、それは結局お互いの感覚になるので、相違が起きる可能性があります。意外と「大・中・小」で書いてもらった方がわかりやすいですね。



林:オーソドックスなギターボーカルの4Pバンドだと何も要望がなければ、センターのギターより上手のギターの方を大きく出してしまうので「同じくらいで出したい」などイレギュラーなことがあれば書いて欲しいですね。あと全く知らないアーティストだとジャンルとか好きなバンドを書いてもらえると分かりやすいです。



TiG:確かに好きなバンドを書いてもらえると目指している音が分かるので、やりやすいですね。



鈴木:密かに「今日は1日よろしくお願いします。」と書いてあると嬉しいです。(笑)。



林:字が汚いというのは別の話で乱雑に要望が書かれているのは、ちょっと嫌ですね。



TiG:あと濃い字で書いて欲しいですね。(笑)



一同:(笑)



林:逆にいらない音が書いてあるとわかりやすいかもしれないです。



TiG:これは皆さんに聞きたかったのですが、予めボーカルの声以外の音って返しますか?

林:返さないですね。

鈴木:ドラムは他楽器の音が聞こえない事が多いので、ドラマーだけに予め他の楽器もうっすら返す時はあります。


ーーアーティストの中には大きい会場で演奏した時に環境が変わらないようにイヤーモニター(以下:イヤモニ)を使用している方がいますが、それは理にかなっているのでしょうか?


鈴木:確かに最近ではイヤモニを使用する人が増えてきましたね。環境を変えたくないという理由ならイヤモニにする事は正しいと思います。ただイヤモニにすると慣れるまでが大変で、今までコロガシから聞こえてた空気感のある音がラインっぽい音で耳の中にダイレクトに聞こえるんです。なので、これからイヤモニを導入しようと思っている方はいきなり両耳をイヤモニにするより、片耳から始めた方が違和感は少ないと思います。


TiG:僕も勉強のためにイヤモニを導入してみたのですが、先ほど鈴木さんがおっしゃたように、コロガシから聞こえるエアー感のある音が大事だということに気付きました。イヤモニをするとライブ中のお客さんの反応も分からないし、メンバーのふとした言葉に反応出来なかったりします。





ライブをするステージと同等の広さのスタジオで練習した方がいい。(林)

ーー小さいライブハウスや練習スタジオのような場所では周りの音がダイレクトに聞こえますが、キャパが大きくなるとプレイヤー間が広い分、普段のステージと違う環境になると思います。そう言った点でいつもと同じ環境で演奏するためのアドバイスはありますか?


鈴木:往年のバンドはPAが決めたモニターの位置から、もっと自分達が演奏しやすいように動かしていますね。



TiG:ドラムのライザー(移動可能なバンド台)にモニター位置を記しているアーティストもいます。



鈴木:ライザーにギターアンプの位置を記しておく事でステージの広さが変わってもメンバー間の距離は変わらないので、普段演奏している環境に近づける事が出来ますね。



林:大きいステージに立ったことのないアーティストだと、PAが決めたデフォルトのモニターの位置に立ってしまいがちなのですが、あれは大体の目安で置いてあるだけなんです。自分達が普段演奏している環境に近づくようにモニターを動かす事でやりやすくなると思います。

ーー確かにアーティストの中には「モニターって動かさない方がいいのかな」と遠慮している方もいますよね。


鈴木:クラブチッタくらいの大きなライブハウスだとPAとバンドだけじゃなく舞台監督がいることもあって、アーティストから来るセッティング図をもとに舞台監督が配置等を決めるのですが、その場所から立ち位置が大きく外れると照明が当たらなかったりするので、そこは考慮した方がいいですね。


ーーリハーサルスタジオには様々な環境のスタジオがありますが、練習するにはどの様な環境で練習するのが良いと思いますか?


林:練習の内容によって変わってくるのですが、ライブを想定した音作りをしたい場合は、ライブをするステージと同等の広さのスタジオで練習した方がいいと思います。又、置いてあるスピーカーの出力が小さいスタジオはバンドが音を出すとボーカルが聞こえなくなるので、お勧めできません。


ーーライブハウスの作りやお客さんの入り具合によって、音の聞こえ方が変わると言われていますが実際どのように変化するのでしょうか?

鈴木:クラブチッタではお客さんが少ない日もあれば満員の日もあり、それだけで聞こえ方が全く違います。人が多ければ多い程アンプからの生音が聞こえなくなり、スピーカーからの音が聞きやすくなります。



TiG:お客さんの服装でも変わりますね。冬だとコートなどを着てる人が多くその分服に音が吸われます。なので季節によっても音が変わるとも言われています。


ーーそうなんですね。ではお客さんが一番いい音で聞ける場所はどこなのでしょうか?


TIG:よく言われるのはPA卓の前ですね。


鈴木:バンドの迫力を感じたい人は前で見てもいいと思いますが、前に行くとその分バンドの生音ばかりが聞こえるようになるので、いい音で聞きたい人はあまり前にいかない方がいいと思います。



ーーPAが最終的に目指す場所というのは、やはりドームやアリーナなどの大きいところでオペをするという事なのでしょうか?


TiG:僕は現在、会社に所属して音響をしようと思うことはなくて、他でもやりたいことが多くあり、PAという業務の中でも音楽だけじゃなくてお芝居や講演会など色々あるのですが、そういう事を一度マルチに経験したいなと思いフリーでPAをしています。今はそれが楽しいです。



林:小さい箱で自分がオペをしているアーティストが大きな箱に出るようになって僕もそこでオペをするというのは一つの夢ですね。