【メンバー】久保寺豊(ERA) 義村智秋(SHELTER) 森澤恒行(近松)
今回は下北沢におけるライブハウスの現状や未来について、SHELTER店長の義村氏、ERA店長の久保寺氏、近松代表の森澤氏に登場してもらう。
サーキットイベントの増加、チケットノルマ問題、そしてこれからのライブハウスの在り方について、深く語ってもらった。
[インタビュー:森本真一郎 編集:仲尾静輝 撮影:清水舞]
サーキットイベントに出れる価値が薄くなってきてる。(森澤)
ーーライブハウスを運営するにあたり、渋谷や新宿には無い下北沢ならではの特色はありますか?
久保寺:渋谷や新宿は最先端を目指さなければいけない雰囲気があって、それに比べて下北沢は個性的な人が多く、独自のカルチャーを追求しやすいですね。
ーー義村さんは、以前横浜のライブハウスF.A.Dにいらっしゃいましたが、下北沢に来て感じたことはありますか?
義村:当時の横浜はライブハウス同士の距離も遠くて、横の繋がりがあまり無かったんです。なので下北沢に来た時に、ライブハウス同士のみんなが仲良くて驚きました。あとやっぱり音楽の中心感が強いですね。
森澤:みんな仲良いですか(笑)?
義村:みんなは語弊がありますね(笑)。
一同:(笑)。
ーー森澤さんは『TOKYO CALLING』で渋谷・新宿・下北沢の3カ所でサーキットイベントを運営されていますが、その点どうですか?
森澤:下北沢という街に慣れてる部分もあるかも知れませんが、やっぱり自分も含めスタッフも「下北沢が一番落ち着く」と言っています。下町感が強いのかな。
ーー下北沢はライブハウス同士の距離感も、丁度良いんですよね。最近ではサーキットイベントが増えてきましたが、率直にどう思いますか?
森澤:多過ぎますよね。バンド単位でもサーキットをやるところも増えてきていて。
ーーバンドもそうですが、どうして皆さんサーキットイベントをやりたがるのでしょうか?
義村:大阪のアメリカ村もそうかも知れませんが、隣接しているライブハウスが多いからではないでしょうか?環境がそうさせるのかなと思います。
森澤:サーキットイベントが希薄になっているなと思います。
義村:「出ても意味ないな」と感じているバンドが増えてきてますね。
森澤:増えるのに比例して、出れる価値みたいなものが薄くなってきてる気がします。
ーー森澤さんは早い段階で『下北沢にて』を開催されていますが、当時は「サーキットイベントをやるぞ!」という気持ちからスタートしたのですか?
森澤:最初は普通の自主企画のイメージだったんですが、出て欲しいバンドが増えてその分ライブハウスも増えて行って、結果的にサーキットイベントになりました。

ライブハウスを毎日稼働させるのに反対なんです。(義村)
ーー各ライブハウス毎に、箱側が主催するブッキングイベントがあると思いますが、これは必要だと思いますか?
森澤:絶対にあった方が良いと思います。
久保寺:そのイベントが赤字になろうが、僕も絶対あった方がいいと思います。
ーーブッキングイベントに出てくれたバンドが、その後節目に使ってくれたりして、次に繋がる場合もありますよね。
久保寺:僕は「次に繋がればいいや」っていう考え方が好きじゃなくて、目の前のイベントが成功しないと先には進めないと思っています。ですので毎回全力ですね。
ーー『魅力はあるのにお客さんが入らない』というアーティストもいると思うのですが、そういった部分での悩みはありますか?
久保寺:全然知られていないカッコいいアーティストに出会えるのが、小さい箱の良いところだと思っています。500人や1000人のキャパになると、そういうイベントって絶対出来ないじゃないですか?お客さんは呼べないけど、魅力のあるアーティストがこのキャパのライブハウスには沢山出ているので、ぜひ見に来てほしいですね。
ーー久保寺さんがブッキングを手掛ける日は、一ヶ月でどのくらいありますか?
久保寺:今では月に3~5本に減りましたが、昔は1人しかいなかったので、1ヶ月に25本くらい組んでました。当時は持ち込みイベントもほとんどなくて大変でしたが、その時に目の前のことを本気でやってきたからこそ、今に繋がっているのかなと思います。最近は海外のアーティストが来た時の制作やアテンドもあり、空港に迎えに行きホテルを押さえて、その費用を計算したりもしています。
森澤:イベンターじゃないですか!
久保寺:イベンターですね(笑)。逆に僕はみなさんの様に、サーキットイベントを企画することは向いてないかなと思います。
ーー義村さんはどうですか?
義村:僕はネガティブな箱ブッキングはやりたくないなと思っています。話が逸れますが、僕はライブハウスを毎日稼働させるのに反対なんですよ。ライブハウスに空き日があるのがいけないことだという風潮がありますが、例えば365日稼働していたら無理に箱ブッキングで埋めなきゃいけない日が出てくるじゃないですか?それってアーティストにとってもライブハウスにとっても良くないなと思うので、基本的には持ち込みイベントで埋まってほしいですね。
ーー確かにライブハウスは、毎日イベントが入ってないといけないというムードがありますよね。
義村:そういう概念を変えていけたらいいですね。
ーー森澤さんは今の話を聞いてどう思いますか?
森澤:僕は開店当初、近松の営業日数を月間で21日稼動にしようと思っていたんです。だけど無理でしたね、やっぱり売り上げが全然足りなくて。下北沢はライブハウスや劇場が多くあって、カルチャーは生まれやすいけど家賃が高い。なのでその分アーティストに課すノルマも高くなってしまうので、アーティストに優しくない街だなと自分もバンドをしていて思いますね。

ライブハウスにお客さんをつける施策を箱側も考えないといけない(森澤)
ーーみなさんバンド活動の経験がありますが、アーティストにかけるチケットノルマについてはどう思いますか?
森澤:僕がバンドで下北沢CAVE BEに出てた当時、ノルマってめちゃくちゃ高かったんですよ。それが今ではかなり安くなってる。
久保寺:僕もバンドマンで下北沢の箱はほとんど出たんですけど、CAVE BEはめちゃくちゃ高かったイメージがありますね。
森澤:4万円くらいしましたよね?
久保寺:そうですね。義村さんが横浜のF.A.Dにいる時も出たことがあるんですけど、3万円くらいでしたよね?
義村:そうですね。
久保寺:でも当時は、アーティストの数に対してライブハウスが少なかったから、ノルマが高くてもみんな出演してましたね。
森澤:僕は長く続けているアーティストは、チャージバックの還元率が上がるようなシステムがあればいいなと思っていて、そうしないとどんどんアーティストがいなくなっていくと思うんです。
久保寺:いいですね。
森澤:知り合いに渋谷のクラブで働いている人がいるんですけど、そのクラブは1日で1000杯ドリンクが出るみたいで、話を聞くと1000杯売るためにビラ配りやクーポンを配布するなどをして、お客さんに来てもらう努力をお店側がちゃんとしてるんです。そういう企業努力をライブハウスももっとして、箱にお客さんをつける施策を考えないといけないなと思います。
ーー近松はノルマをかけていないんですか?
森澤:ブッカーによって異なりますね。基本的にはかけないスタンスですが、強制はしていません。最近のバンドって、あまりお客さんを呼ばない傾向にありませんか?
義村:呼ばないですね。
久保寺:昔は呼ばなければ、めちゃくちゃ怒られましたよね。
森澤:やばかったです(笑)。
ーーノルマをかけていないバンドが、お客さんを呼べてない時はどうするんですか?
森澤:あんまり強く言うとアーティストも萎縮しちゃうので、極力言いたくはないですが言わないとアーティストの為にもならない所もあるので、難しいですね。
義村:僕は言います。
ーーERAはノルマをかけていますか?
久保寺:かけている時もありますが、昔ほどかけてないです。今は駆け出しのバンドでも、「ノルマがあるなら出ません」って言ってくるバンドもたまにいます。自分達から出たいですと言ってきてノルマを払いたくないのであれば、ERAには出てもらわなくてもいいかなと思っています。
ーーSHELTERはどうですか?
義村:LOFT PROJECTが元々ノルマをかけないスタンスなので、基本的には無しです。ただ個人的には、逆にノルマがない方がバンドにとってプレッシャーになるのではないかと思っています。ノルマは最終的にお金を払えば済むっていうところもあって、集客に自信のないバンドは、逃げ道にもなるのかなと思うのですが、いずれにせよお客さんを箱につける企業努力を、ライブハウス側ももっとするべきだと思います。
久保寺:ノルマ問題はライブハウスの永遠のテーマですね。
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